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vol.2/白骨温泉 小梨の湯 笹屋・加藤 二三子

白骨温泉中心部から少し離れた白樺林の中、指折りの佳宿に育て上げた女将さん

豊かな自然環境に恵まれた谷あいに、独特の乳白色の湯をたたえて魅力あふれる湯宿が点在する、
信州を代表する温泉地・白骨温泉。
その人気の温泉地にあって、もっとも後発の湯宿でありながら、熱烈なファンを持つに至った小さな宿がある。
指折りの佳宿に育て上げた女将さんが、遠慮がちながらも率直に語ってくれた細腕奮闘記。

白骨温泉・小梨の湯笹屋/加藤二三子さん
加藤 二三子 (かとう ふみこ) /白骨温泉「小梨の湯 笹屋」女将。1948年、白骨温泉の宿を経営する人たちの本拠だった旧安曇村大野川で、加藤利雄氏の長女として生まれる。昭和58年、父が掘削していた温泉を元に「小梨の湯 笹屋」を開業。以来、女将一筋に人気の佳宿に育て上げ、今日に至る (2016年12月現在)。

 


「古民家再生の宿」として開業

飯出 笹屋さん、開業したの何年でしたか?

加藤 昭和58年。私が35歳のときです。

飯出 そうすると…、もう33年?

加藤 そうです。もう33年目。昭和58年8月1日に開業しました。

飯出 最初にお宿を始めたのはお父さん?

加藤 そうです。

飯出 じゃあ女将さんは2代目ですね。

加藤 いえ、父は下 (湯川沿いの白骨温泉の中心部) の方で「柳屋」という宿をやっていて、ここは私たちが初代です。

飯出 女将さんは、それまで「柳屋」を手伝っていたんですか?

加藤 そうです。「柳屋」は大野川区の持ち物で、それを父が借りて経営していたの。私は中学を出て家を離れ、下宿して松本の高校に進学したんだけど。

飯出 何歳から手伝ったんですか?

加藤 高校を出てすぐ。卒業間近に父が病気になり、母は元々病弱だったので、2人姉妹の長女の私が仕方なく…。

飯出 そうなんだ。進学したかったのに?

加藤 そう、でもあきらめきれず、大学の通信教育で勉強してました。白骨にいながらです。

温泉達人・飯出敏夫

 

飯出 ここはお父さんが建てたんですか?

加藤 父は笹屋が完成する7年前に亡くなりました。母は完成した2年後に。

飯出 そうなんだ…。

加藤 温泉を掘削して自分の旅館を持つことが夢だった父には、せめて完成した笹屋を見てもらいたかったですけど…。

飯出 この建物にするには、どこか見本となるモデルはあったんですか?建てるときにあちこち見に行ったとか?

加藤 いや、見に行かなくて。私がこういう古民家が好きだったもんだから。

飯出 降畑さんの設計ですよね?

加藤 そうです。設計は降幡廣信さん。民家再生の部門で、日本建築学会賞を受賞された方です。

飯出 ここのほかは大町温泉郷の「あずみ野河昌」さんもそうでしょ?

加藤 そうです。それから奥飛騨の福地温泉の「湯元長座」さんもそうじゃないかなぁ。

飯出 美ヶ原温泉の旅館すぎもとさんも降幡さんだと聞いてますよ。これは完全に女将さんの好みというか、趣味で建てたんですね。

加藤 そうですね(笑)。

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▲浴場や離れ棟に向かう階段の廊下。凛とした空気と古民家の風情が漂う。

 

飯出 その時はもう結婚してたんでしょ?

加藤 えぇ。子どももまだ小さかったんですけどね。

飯出 潤くん (息子さん) はいくつだったんですか?

加藤 保育園ですね。

飯出 まだその頃かぁ。

加藤 私が35歳の時に建てました。

飯出 ご主人 (光昭さん) とは、下の「柳屋」時代にはもう結婚されてたの?

加藤 はい、私が24歳のときに。主人は4つ上。

飯出 それまで、ご主人は何をされていたんですか?

加藤 主人はねぇ、薬品会社に勤めてて。

飯出 薬品会社?でも、調理師でしょ?

加藤 いやいや、全然違う畑違いのとこで。

飯出 じゃあ、結婚されてから調理師免許取ったんですか?

加藤 主人は調理師免許取ってないの。

飯出 あぁ、そうなんだ。でもご主人も作るんでしょ?

加藤 作ってます(笑)。

飯出 たしか、娘さんが調理師学校に行ったんですよね?

加藤 えぇ、そうそう。大阪の辻調理師専門学校に行きました。

飯出 娘さん、嫁いでからも、今も手伝いに来てるんですか?

加藤 えぇ、今日も来てました。

飯出 あぁ、そうなんだ。

加藤 おかげ様で家族中でやってますよ。

小梨の湯笹屋/外観
▲初夏の笹屋。郷愁を誘う建物の彼方、残雪を戴いた乗鞍岳が姿を見せる。

 

ふるさとを無くした人の我が家に、との想いで…

飯出 女将さんはこのお宿建てて、一番どんなお宿にしたいと思ってやってきたんですか?

加藤 それはお客さまに絶えず来ていただくという…。絶え間なく来ていただける宿にしたいなぁと。

飯出 それにはどういうところに一番気を配ったんですか?

加藤 そうですねぇ。今、ふるさとを持たない方がいっぱいいるもんだから、こういう古民家風の宿で昔の落ち着く雰囲気を出して、昔を懐かしみながらここが我が家だっていう風にしたいなぁと思って。

飯出 もともと、下の「柳屋」というお宿をやってて、その時にお父さんがここで温泉を掘削したわけですよね。それはお父さんもここで旅館をやりたいという思いがあったんでしょうね?

加藤 そうですね。

飯出 ここの場所も、そのときに?

加藤 ここの場所は、父は知らなかったですね。お湯だけはもう掘ってあって。

飯出 ここにお宿をという、そんな具体的なことはそのときは考えてなかったんだ。ここにお宿建てようっていうのは女将さんが?

加藤 そうです。たまたまここが親戚のおばさんが持ってた土地だったので。

飯出 なるほど。でも、ここは最高の場所ですよねぇ。

加藤 えぇ、本当に。当時はスキー場の跡地だったから。それこそ娘、息子をおぶいながら来た時は、笹の中をかき分けて。ここに来たとき、ちょうど晴れてた時でねぇ、乗鞍岳が見えて、それから霞沢岳が見えて。わぁ、ここだわって。

小梨の湯笹屋/貸切露天風呂
▲貸切露天風呂からは、葉を落とした白樺林の彼方に乗鞍岳が見える。

 

飯出 まだ樹木も低かったから。スキー場だったからですね。

加藤 そうそう。

飯出 ここの場所は、もとはゲレンデだったのかしら?

加藤 ゲレンデのど真ん中です。

飯出 あぁ、そう。

加藤 その下に鉄塔がありますね。あれが跡地の名残です。

飯出 なるほどね。

加藤 当時、スキーは高級な遊びでしたのでねぇ。

飯出 じゃあ、そのスキー場の跡地に白樺が生えたんだ?

加藤 そう。

飯出 その頃笹がいっぱいだったから、笹屋にしたんですか?

加藤 その笹の群生地を、主人と一緒に全部刈りました。長い鎌を持ってきて(笑)。

飯出 それで笹屋って名前にしたんですね。で、小梨が咲いていたから。

加藤 そう、小梨平だから。それで「小梨の湯 笹屋」に。

飯出 昭和58年に開業して、軌道に乗ったって感じは何年後くらいですか?

加藤 15~16年後くらいかな。

飯出 今や、僕から言うのも何だけど、白骨温泉で一番人気のあるお宿になったじゃないですか。

加藤 いえいえ、そうはならないですよ。

飯出 でもまぁ、佳いお宿になりましたよね。

加藤 ありがとうございます。小さいながらも家中でやっていければと、大きくしないで良かったなぁと思ってますね。

飯出 10室はちょうど良いくらいですよね、家族でやるにはこのくらいの規模がね。目が届くということで。

加藤 えぇ。結局2軒やった時、無駄が出ましたよ。柳屋もやって、ここもやってと2年くらいだぶった時期があったから。ここは私たちが入って、下は妹たちが見てくれてたんですけど。

飯出 あぁ、そうなんだ。で、いま考えていることは?

加藤 現代風に人手のかからないように、ベッドにして手がかからないようにしたり。

飯出 今、ベッドの部屋は何室あるんですか?

加藤 1部屋です。やっぱり人手のことを考えると、募集してもどんどん来る時代ではなくなっているから。うちでなるだけ手をかけずにやっていこうと思って。

飯出 人件費が一番かかるでしょうからね。

加藤 そうですね。

小梨の湯笹屋/和洋室「十石」
▲離れにはグレードアップした部屋が3室。ここは1室だけある和洋室「十石」。

 

白骨温泉ならではの湯を守る苦心

飯出 お宿を守っていく、あるいは温泉を守っていく上で一番大変なのはどういうところですか?経費的な面も含めて。

加藤 うちの温泉は加温がやはり大変ですね。メンテナンスも含めてお金がかかります。なるべく手のかからなうように今考えているところです。息子たちも含めて、いろんな方法を考えてます。

飯出 今は加熱したお湯をパイプに通して、それを源泉の中に入れて加温しているわけですか?

加藤 はい、そうです。

飯出 ということは、源泉とそのお湯は、直接は触れないわけですよね?

加藤 そうです。触れないです。

飯出 そういう努力は必要ですよね。

加藤 えぇ。やっぱり源泉にお湯が混ざるといけないから、それしかない。

飯出 お湯が混ざるといけないし、お湯を直接加温すると変質しちゃいますからね。

加藤 そうです、そうです。面倒なお湯です、これは(笑)。

飯出 いかになるべく源泉に近い形でお風呂に注ぐかっていう、それが一番苦心するところですよね。面倒だけど、でもそこが一番大切なところだから、手抜きできないですよね。

加藤 そうです。1週間に1回は必ずパイプをきれいにメンテナンスして、コンコン叩いて。考えられないと思います、お客さん見たら。すごいことやってるねって(笑)。

飯出 固まりって感じで出てくるわけ?

加藤 そう。もう、固まっちゃって。

飯出 源泉から汲み上げるパイプ?

加藤 いや、加温したところから湯口までのホース。

飯出 それが固まる?

加藤 そう。付着して固まる。

飯出 でもそれが白骨温泉の一番の持ち味だから、しょうがないですよね。

加藤 えぇ。命だから(笑)。

小梨の湯笹屋/木造りの湯船の縁
▲木造りの湯船の縁は、炭酸カルシウムの結晶が付着してまるで鍾乳石状態。

 

山の湯宿らしい料理へのこだわり

飯出 今、女将さんのところの料理はご主人と女将さん、娘さんとで作っているの?

加藤 息子も帰ってきたので、息子も。

飯出 あ、息子さんも作るんですね。

加藤 主人は「岩魚の笹巻き」だけですね。

飯出 あぁ、そうなの。

加藤 開発したのは私ですけど、作ってもらうのは最初から最後まで主人、社長のみです。

飯出 へぇ。で、そばがきは女将さんが必ず作っている?

加藤 そうですが、私がやれないときは皆が作れるようにしてます。

飯出 で、そのほかを娘さんや息子さんと手分けして作るわけですね。息子さんは調理師免許持ってるの?

加藤 えぇ。持ってます。

飯出 あ、そうなのね。やっぱお宿の人が作るのと板前さんが作る料理はどこか違いますからね。やはり、お宿の人が作る料理には特別な思いが込められている気がしますね、どうしても。それが一番重要だなぁって思うんですけどね。

加藤 そう感じていただければ、それが一番うれしいですけど。

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飯出 料理では一番、どういうところに気をつけてるんですか?

加藤 やっぱり、山の中に来たら山のものと思って。

飯出 でも、山のものは海と比べると手がかかるから大変ですよね~。

加藤 もう作るの、大変です。アクがあるものもあるし、下ごしらえに手がかかるので。

飯出 手間がかかるでしょ?だけど、それでいて食べる段階になると、それは分かりにくいじゃないですか、お客さんには。海に近い人は楽だなぁと思うんですけど(笑)。

加藤 こんな良い山菜を使って作っても、海のもののように豪華にはならないですからね。

飯出 海のものも使ってるの?少しは。

加藤 一切使ってないです。

飯出 一切使ってないんだ、最初から?

加藤 はい。ここオープンした時から。それだけはこだわってますね。海のものに似たようなものを、川魚の素材を活かして作ってます(笑)。

飯出 今の魚は何ですか?
(※インタビュー時は、初夏)

加藤 信州サーモンとイワナですね。

飯出 信州サーモンって…あれは?

加藤 長野県のブランドですね。

飯出 どこで養殖してるんですか?

加藤 明科ですね。

飯出 でも、安定供給はされてるんですね?

加藤 はい。

飯出 あとは、信州牛ですか?

加藤 そうそう。人気出てきましたね。やっと牛肉をプランにして申し込んでくる方が多くなってきましたね。

飯出 でも笹屋さんは、やっぱり「岩魚の笹巻き」と「そばがき」が印象強いですね。

加藤 どこでも食べられないものと思ってねぇ、開発したのが良かったかなぁと。

飯出 ああいう料理のヒントは、最初の頃はあちこちの宿に行ってみて、参考にしたんですか?

加藤 宿よりは料理屋さんですね。探して、訪ねて。おかげさまで、あちこちの料理屋のご主人とも親しくさせていただき、教えていただいたことが大きいですね。

飯出 それを自分流にアレンジしたってことですか?

加藤 そうですね。
(※インタビュー後、女将さんが入院された際に手が足りなくなり、息子さんと気心が知れている板前さんに応援を頼んだのを契機に、その後も引き続き勤めてもらっているとのこと)

小梨の湯笹屋/そばがきと岩魚の笹巻き
▲女将手づくりの「そばがき」(右上) とご主人担当の「岩魚の笹巻き」(手前)。

 

女将さんのセンスは天性のもの!?

飯出 私が最初に訪ねたのはもう25年前になるかなぁ(笑)。そのときからすごく感心しているんですけど、ちょっとした置き物とか野の花とか、ああいう女将さんのセンスっていうのは、学んだものじゃないですよね?

加藤 私は勉強という勉強は一つもしてないんです。ここから出られなかったの。

飯出 言ってみれば、女将さんの感性ですよね?

加藤 いやいや…。

飯出 自分がこれが良いと思ったものを飾ったわけでしょ?それってセンスじゃないですか(笑)。昔は小さい焼き物置いて、よく持っていかれたりしたって嘆いてましたよね?

加藤 あぁ、本当にもう…。やっぱりお客さまも良いもの知ってる、って思いますよね。

飯出 持って行くっていうのはねぇ…。

加藤 ごっそり。

飯出 がっかりしちゃうでしょ?

加藤 がっかりですよ、本当に。

飯出 最近はあまりないですか?

加藤 最近はないですね。まぁ、注意もしてますけどね。

飯出 高価なもの置けないですよねぇ。高価なもの置けないけど、結構高価なものですもんね(笑)。

加藤 そうですね(笑)。でも買ってきて、ちょっとするとなくなってるものが多いんですよ。

飯出 でも、そういう人はリビーターにはならないでしょ?

加藤 ならないですね。

飯出 次、来れないもんね。

加藤 黄色のカタクリを私が大事にしてて、女性風呂のわさび畑の向こうに植えてあったのが、朝行ったらそっくりなくなってて。

飯出 持っていかれちゃった?黄色のカタクリなんて見たことないですよ。

加藤 ないですよね。私も珍しくて、みなさんに見せたくて。植えて次の年出てきたもんだから、これは良かったと思って。そしたら高山植物に興味ある方は見てるだけだと思ったら違うんですよね。掃除しようと思ったら「女将さん、カタクリないよ」って。

飯出 掘って持っていかれちゃった?

加藤 掘った後があった(笑)。

飯出 へぇ。それは自然のもの?どっかで見つけたもの?

加藤 苗屋さんで見つけたの。貴重だったもんで、ちょっと高価だったけど買って来ちゃったんです。次の年、たった1年見たっきり。

飯出 はぁ…。

加藤 まぁ、しょうがないかなぁと。女性風呂の向こう側に花を植えるのがうれしいんですよ。敷地内の見えない場所でひっそりと咲いている珍しい花を見つけると、ぜひお客さまの見える所にと思って採ってきて植えて、少しずつ増やしてるんです。

小梨の湯笹屋/女将が活けた草花
▲館内のいたるところで、女将の丹精した草花が目を楽しませてくれる。

 

後を託す息子さんへの想い

飯出 最後になりますけど、女将さんは二三子さんだから、昭和23年生まれでしょ?僕は22年生まれなんだけど、もうそろそろ子どもに後を託す年代じゃないですか?

加藤 そうですね。

飯出 まぁ、後は息子さんと若女将さんですよね。

加藤 そうなんですけど、引き継ぐのは本当に難しいことだと思いますね。

飯出 今は女将さんとご主人で築いてきて、その常連さんがリピーターですからね。これからまた変わっていくでしょうしね。どんな思いで、今渡したいと思ってるんですか?

加藤 今の常連さんを大切に、このまんまでいってくれたらなぁと。

飯出 でも、息子さんは息子さんで思いがあるんじゃ?

加藤 そうですね(笑)。でも、思いは徐々に、私がいなくなってからね(笑)。どっかで苦労はしてもらわないと。あんまりのんびりと過ごしたんではね。

飯出 お宿はどこも後継の問題が一番大変のようですね。あととりが結婚していないケースも多いですし。それから見れば、こちらは息子さんも結婚されて、お孫さんも出来たし、安心なんじゃないですか?

加藤 なかなか思うようにはいかなくて。

飯出 親がある程度完成させた宿に育て上げると、子どもは大変なんでしょうね。そんなことをよく聞きますよ。

加藤 そうですかねぇ…。

飯出 どっかね、後を継ぐ子どもが自由にできる場所をね、ここの部分は好きにしていいよっていうような、そういう部分を作っているみたいですよ。

加藤 あぁ、そうですか。それはそうかもしれない。

飯出 まぁ、なかなか難しいですよね。別館とかそういうのがあればまた別だけど。でも規模が大きくなっちゃうと後が大変でしょうしね。

加藤 うーん、でも事業継承ということはこんなに大変なことかと思って。一大事業ですね。簡単に考えてたけど、人生の中でこの3年間が節目で。

飯出 でも、良かったですよね。息子さんもすっかり腰を据えてくれたようだし。

加藤 前以上にこっち向いてくれるようになりましたね。

飯出 一時、家を出たことがありましたよね。あのときは本当に心配したんですけど。

加藤 そうですね。あのときが一番辛かった…。

飯出 ちょっと頭を冷やす時期というか、一歩退いて客観的に宿のこととか、自分自身を見つめる時間が必要だったと思うんですよね。

加藤 そうですね。いまになってみると。

飯出 息子って、何言っても聞く耳持たないって時期がありますからね。気持ちも一途で、意固地になったりしてるから。

加藤 そういうの、話を聞けば、お宿はどこも大なり小なりあるようですね。

飯出 どこでもありますよ。別にお宿でなくたって、どこの家庭でもあることですから。まぁ、だんだん折り合いをつけていくしか、仕方ないんじゃないですか(笑)。

小梨の湯笹屋・加藤二三子さんと温泉達人・飯出敏夫

 

…あとがき…

「小梨の湯 笹屋」は私のもっとも好きな湯宿の一軒である。
というより、このような小規模の宿の中では、文句なしにベストワンだ。
風格ある構えだが重厚すぎることもなく、館内では趣味のいい花器にさりげなく活けられた野の花や香のかほり、凛とした空気に魅了される。
半露天の趣の内湯、白樺林に囲まれた小さな貸切露天風呂、湯はもちろん極上である。
料理もお仕着せでなく、華美でなく、心のこもった手づくりの数々…。
女将さんの思いが見事に凝縮された佳宿。
企業ではなく、家業としての湯宿。
いつ訪ねても、その真髄を見る思いが裏切られることはない。

(公開日:2016年12月26日)

◆カテゴリー:湯守インタビュー


 

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白骨温泉・小梨の湯笹屋/露天風呂

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